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大抵の人が寝静まっているであろう午前二時。
勿論、天下の大帝国劇場にも起きている人間はほぼ見当たらなかった。

二階にある一室。
部屋の主である大神一郎は喉の渇きを覚えてふと目を覚ました。

(何か飲もう・・確かミネラルウォーターが・・)

厨房の冷蔵庫にあるであろう水分を求めて起き上がろうとした、その時。

「え、あれ!?」

起き上がろうとした、にも拘らず起き上がれない。
辛うじて首が動く程度で、腕すら上がらなかった。
俗に言う『金縛り』である。

『大神くん、お久しぶりね』

聞き覚えのある、しかしとても懐かしい声。
帝国歌劇団の前副支配人、藤枝あやめの声が聞こえた。

「あ、あやめさん?・・これは、一体!?」
『あら、ちょっとしたお仕置きよ』
「お仕置き?俺は一体何をして・・・」
『まあ取りあえず、上半身くらい起こせるようにしてあげるわ』
「は、はい・・」

ふう、と溜息を吐きながら体を起こし、あやめに向き直る。
突然現れ、お仕置きと言って問答無用の金縛りとは一体どういう事なのか?

「それで、あの、俺は一体・・」
『大神くん。今度の遠征の采配、かえでを司令に据えたわよね』
「はい、今の皆なら昔のような事は無く、きっと大丈夫だと・・・」
『そうね、大丈夫かもしれない。皆は、ね』
「皆は、って・・?」
『かえでには、相当なプレッシャーが掛かってるわ。欧州の事を一番気に病んでたのはあの子ですもの』
『気が付かなかったかしら、最近のかえでは時々不安そうな顔をしてたわよ?』
「そんな・・俺は、どうしたら・・・?」
『米田さんが気づいてフォローして下さったから、大丈夫』
「・・・じゃあ、あの時に・・?」

昼間、劇場内を見ると言ってかえでを伴った米田は厳しい目を自分に向けた。
あれは、気付けというサインだったのだろうか?

『そう。やっと気付いたのね、大神くん。じゃあ、お仕置きの仕上げよ』
「え、仕上げ・・って?」

気が付けばあやめは大神の目の前に移動していた。
大神は思わず後ずさりしようとしたが、運悪く自分はベッドの上である。
当然ながら、嫌な予感しかしないのだが逃げる事は不可能で。
いや、もう自分に逃げる資格は無いと腹を括るしかなかった。

やがて、すごい音を立てて、大神は壁に体をぶつける事となった。

「う・・」

あやめのお得意、しかも人外のパワーで。
これは、もしかしなくても、相当怒っている。




「大神くん?すごい音がしたけど、どうしたの?」

控えめなノックの後、心配そうな声が聞こえた。
隣の部屋を使っているかえでが、あまりの音に驚いたらしい。

「か、かえでさん・・あの・・」
「入るわよ、大神くん」

取り敢えずとばかりに一声掛けてから部屋に入ったかえではその場から動けなかった。
部屋には頭を抑えて蹲る大神。
そして、昼間感じた気配が予想通りに大神の前に居るのである。
大神とあやめを交互に見て、恐る恐る声を掛けた。

「姉さん?・・お、大神くん?ちょっと、大丈夫?」
「は、はは、大丈夫・・です」
『怪我とかはさせてないから大丈夫よ?』
「何したの?すごい音がしたんだけど・・」
『いつも通りのお仕置きだけど?いつもよりちょっと力が入りすぎたかしら』
「・・・・・ありがとう、姉さん。後は大神くんと話してみるわ」
『そう?じゃあ、失礼するわね。おやすみなさい』

あやめはいつもの優しげな笑みを浮かべてふわりと去っていった。
ただ、呆然とその場所を見つめるかえでと大神。




「い、痛かったでしょう、大神くん。少し冷やす?」

一気に静まった場の空気に耐え切れず、かえでが切り出す。
蹲っていた大神ははっとして、慌てて捲し立てた。

「あ、あの。かえでさん!俺、すみませんでした、全然、気付かなくて・・・!」
「大丈夫よ、私なら」
「でも、俺は、ずっとフォローも何も」
「落ち着いて頂戴。大神くん、私は大丈夫だから」

起き上がろうとする大神の肩を押さえて押し留めながら、かえでもしゃがみ込んだ。
大神が落ち着いたのを確認して、ゆっくりと話し始める。

「確かに、不安だったわ。レニや織姫だけならともかく昴やラチェットまで編成に組まれてて」
「大河くんの指揮ではなく、私の指揮でもう一度動いてくれるのかどうか」
「欧州時代の事も皆少なからず引きずってしまうだろうし、ギクシャクしないか、とか」

「何より、私に皆を纏める自信が無かったから」

一瞬、泣きそうな顔で大神を見る。
だがすぐにいつもの穏やかな笑顔に戻って、言った。

「でもね、大丈夫よ。私も大神くんみたいに真っ直ぐで居ようと思ったの」
「俺みたいに、真っ直ぐ・・ですか?」
「そうよ。真っ直ぐに皆を見て、真っ直ぐ皆に向き合う。貴方はいつもそうでしょう?」
「俺は、ただ皆にいつも助けてもらって・・」

困惑した顔で大神は否定しかけるが、かえではそれに首を振った。

「いいえ、大神くん。私ね、レニや織姫が此処に来た時、とても心配だったわ」
「欧州の時のままのあの子達が、どうやっていくのか、とても」
「でも、織姫くん達は・・!」
「そう。大丈夫だった。貴方が、貴方達が、あの子達と真っ直ぐ向き合ってくれたから」
「絶対に見捨てない、真っ直ぐな心があの子達を救ったんだと、私は思うわ」

そこまで言って、立ち上がりながらかえでは続けた。

「だから、私も。貴方みたいに、皆に助けてもらう事にするわ」

ふふ、と笑いながら大神に手を差し出したかえでの眼には迷いも不安も無かった。
大神は差し出された手を取りながら、微笑み返す。

「俺も、力になります。いつでも言ってください」
「あら、じゃあ頼りにしてるわよ?隊長さん」

優しさの篭った指に額をツンと押されて、大神は笑みを深くした。

(ああ、俺もまだまだ精進しないと、駄目だなぁ)

(楽しみだわ、あの子達に揃って会えるのが)


――――その後。

「あ、いてて・・っ」
「大神くん?あら、やっぱり冷やしましょう!氷を持ってくるわね」

パタパタと慌てて氷を取りに行ったかえでを見送ると何処からか声が聞こえた。

「情けないぞ、大神ぃ。明日はきっと真っ赤だなぁ」
「う、うるさい。お前、何で助けてくれないんだ」

親友の冷やかしに悪態を吐きながら、鏡で額を確認する。
これは確かに、明日どうしたものかと肩が落ちた。

「前副司令だって気付いたしな。それに俺にはかえでさんのお茶の方が大事さ」
「ちょっと、加山くん。余計な事言ってないで出てらっしゃい!」
「はい、お呼びでしょうか副司令」

戻ってきたかえでにお喋りを止められ、芝居がかった仕草で現れる加山。

「お呼びでしょうか、じゃないわよ。もう。報告に来てただけでしょ?」

余計な尾ひれをつけて、と加山を睨みながら大神に氷を渡す。
はは、と笑いながら氷を受け取った大神は加山を見遣りながら退散を促した。

「もう遅いし、戻って休めよ、加山」
「大神ぃー!親友の心遣いに感動だなぁ!では、アディオス!」

大袈裟に感動を表して去って行った親友にやれやれと嘆息しながら額を冷やす。

「じゃあ、大神くん。私も休むわね。おでこ、ちゃんと冷やすのよ?」
「あ、はい。おやすみなさい、かえでさん」
「おやすみ、大神くん」

親友なりの心配と、かえでの心の広さに感謝する大神であった。




あとがきという名の言い訳

あやめさん怒らせちゃった編です、はい。
きっとあやめさんはかえでさん大事だし。
たまにはきっと、こんな感じにも、なるの、かな?←
シリアスなような、コミカルなような(笑)
最初は加山は出さないつもりだったけど、出しちゃいました。
たまには加かえに走ろうかなと思いまして。
因みに加山は、確かに報告に来てたけど、お茶もホントに飲んでました設定です。

てかあれですね。私、あやめさん出しすぎですね。
マリアが最近全然なのになー。

ではでは、寒い時期なので風邪などには皆様お気をつけて。

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