春先の銀座、大帝国劇場。
夜も更けて随分と遅い時間である。
にもかかわらず、幾つかの部屋にはまだ明かりが灯っていた。
一つは大帝国劇場副支配人、藤枝かえでの部屋。
月組隊長である加山からの報告を受けている最中だった。
「現状では、月組の隊員を帝都全域の警戒にあたらせるのが限界かと思います」
「そうね、せめて敵の動向を見落とさない事・・か」
先程から報告を続けている加山は不審に思っていた。
いつもならこちらを見て報告を聞くかえでが、今日はずっと窓の外を見ている。
「・・・あの、副司令?」
「なぁに?まだ何か報告あったかしら?」
「いえ、今日は外を気にしておられるので、何かあるのかと思って」
「そう?そんなつもりは無かったんだけど」
かえでは普段通りの副司令の声で答える。
「今日は少し寒いし、お茶でも・・」
言いかけて用意をしようとしたかえでは、ふと後ろから引きとめられた。
「お気付きですか?今日はかえでさん、ずっと難しい顔をされている」
言われて、鏡を見て気が付いた。
確かに其処にはいつもより厳しい顔をした自分が写っている。
そういう事に聡い加山の前で、と自分の失態にため息を吐きながら言う。
「嫌な予感がしたのよ、最近月が赤いから」
「かえでさん・・・」
―――コンコン
「あ、こんな時間に誰かしら。・・どうぞ?」
「夜分遅くにすみません、かえでさん。加山隊長も。お仕事中でしたか?」
声の主はマリア・タチバナ。
申し訳なさそうな顔で本を抱えて立っていた。
「通りかかったら、明かりが点いていたので。この前の本を返そうと思って」
「あら、いつでも良かったのに」
「相談したい事もあったし、丁度良いと思ったんですが。お仕事中なら私はまた出直して・・」
「俺の事なら気にしないでください、マリアさん。報告も終わった所ですから」
「しかし・・・・」
気にするなと言われても、はいと言えないのが真面目なマリアらしい。
「相談があるんでしょう?俺はお暇します。おやすみなさい、副司令、マリアさん」
「おやすみなさい、加山君。お疲れ様」
「・・おやすみなさい、加山隊長」
加山が去った後、数秒。微妙な沈黙がかえでの部屋を包む。
「ねぇ、マリア?いつから居たのかしら?」
「報告が本当に終わったあたりからです」
要するに、殆ど最初からである。
しかも会話も聞こえていたらしい。
「加山隊長は、難しい顔とおっしゃいましたけど」
「・・やっぱりいつもと違ったかしら、私」
「ええ、でも。もう隠す必要も無いでしょう?」
――ここには、私とかえでさんしか居ませんよ。
カーテンを閉めて月を隠しながら、こちらを向いてそう言われたら。
ああ、もう。姉さんはどうして貴方に勝てたのかしら。
気がついたらもう抱きしめられていた。
カーテンを片手で閉めながら言った。
「ここには私とかえでさんしか居ませんよ」
ほら、もうあの赤い月は隠してしまった。
そんな痛そうな顔をしなくても大丈夫なのだ。
それを無理に隠す必要も、無い。
気がついたら彼女を抱きしめていた。
「そういえば加山隊長、かえでさんって呼んでましたね」
「・・・そういえば、呼ばれたわね」
あの男、今度そう呼んだら撃ってやろうか。
「マ、マリア?撃っちゃ駄目よ、ね?」
「分かりました、かえでさんがそう言うのなら」
あとがき的なもの
マリアの相談はそれこそ口実です。
加山を帰らせて二人きりになる為の。
かえでさんは難しい顔をしてたんじゃなくて痛そうな顔してたんです。
ホントはあやめさんが死んだ日と同じ赤い月が嫌なかえでさん。
そんなかえでさんを心配してやって来たマリアと、同じように心配した加山。
惜しかったなぁ、加山隊長(笑
最後、マリアの考えを読めてしまったかえでさん。
マリアはやりかねない。
もう少し読みやすく出来ればよかったんですが。
マリかえって言うか加山→かえで←マリアみたいな。
創作って難しいですねぇーー;
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