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元帝国華撃団司令にして大帝国劇場支配人、米田一基。
帝撃を大神に任せて引退した彼は久方ぶりに大帝国劇場の支配人室にやってきた。

「大神ぃ、入るぞー」

今まで呼び出しなど無かったのに何事かと訝しく思いながらドアをノックする。
すぐに大神からどうぞ、と返事があったのでそのまま入る。

「お久しぶりです、米田さん」
「ご無沙汰しております。朝早くに、申し訳ありません」
「おう。元気そうでなによりだな、二人とも」

支配人室で待っていたのは大神と副支配人の藤枝かえで。
二人とも表情が硬い上に、かえでなどこの上なく不安そうである。
隠居の身である自分を引っ張ってくる必要がある大事、ということか。

「話せ、大神。俺を呼んだってこたぁ、そういうこったな?」
「はい。イギリスに詳細不明の霊子甲冑が出現、圧力で動けない巴里華撃団に代わって帝都・紐育で鎮圧に向かいます」
「圧力?・・・迫水が動けねぇとは余程か。で、お前も出るのか?」
「俺も、かえでさんもイギリスへ行く事になりました。申し訳ないのですが、その間・・・」
「アイリス達に、米田さんが来るって言っちゃったんです」

険しい顔で話す大神の後を受けて申し訳無さ気に続けるかえで。
そう、駄々をこねたアイリスに米田の話をして宥めていた手前、どうしても米田に来てもらう事になったのだ。
帝劇の留守を任せられる数少ない人である事もまた理由ではあるのだが。

「はっはっは!そうか、アイリスに言っちまったか!そりゃ仕方ねぇな」

少ない会話で現状を察し、自分が呼ばれた理由を理解した米田は笑い飛ばした。
花組をよく分かっているからこそ、アイリスの駄々っ子にはなかなか勝てない事も知っている。
何せ、あのあやめですら時々困っていたのだからもう仕方が無いのである。

「よし!留守は任せとけ!久々に支配人面して歩いててやるよ」
「ははは、すみませんが宜しくお願いします」

笑いながらチラリと横目でかえでの様子を伺ってみたが、不安の色は消えていない。
大神もそれが分からない男ではない筈だが、どういうことなのか。

「よし、久々に帝劇を歩き回るとすっか。かえで、一緒にどうだ?」
「?は、はい。お供させて頂きます」

敢えてかえでの方は向かず、大神に咎める様な視線を向けて支配人室を後にした。





一通り見てから地下の方へ歩きながら、かえでに最近の皆の様子を聞く。
アイリスはこれでも我侭が随分減ったとか
相変わらずカンナとすみれが会う度に喧嘩してるとか
紅蘭の部屋をこれまでに改修した回数とか(とんでもない数字だった)
ロニや織姫が随分大人っぽくなってきたとか
さくらは今やマリアと並ぶ看板女優だとか

劇場を一巡りする際にも皆に会ってそれを実感する。

サロンではすみれに会い、お茶を飲む。
途中でカンナが乱入してやはり諍いになった。

「まぁ、米田さん!ご無沙汰しておりますわ。よろしかったらお茶をご一緒しませんか?」
「おう!元気そうだなすみれ!じゃあ、お言葉に・・・」
「あ、米田さんじゃねぇか!サボテン女と何話してんだ?」
「ちょいと、カンナさん!誰がサボテンですの!大入道に言われたくありませんわ!」
「何だと!誰が大入道だぁ!?」

・・・・エンドレス。

紅蘭の部屋の前を通ったら爆発が襲ってきた。

「あ、米田さん!ひっさしぶりやなぁ!」
「紅蘭、今度は何作ってたんだ?」
「『目覚しくん』や!織姫はんを起こすにはと思たんやけど・・」
「気持ちは分かるけど、あれは目覚しくんでも起こせないと思うわ、紅蘭」
「うーん、やっぱそうなんやろか・・?」
「取りあえず、裏方達よんでやってくれ、かえでくん」

中庭ではロニと織姫、アイリスがフントと戯れていた。

「あー!米田のおじちゃんだ!わーい!」
「元気そうですねー!良かったでーす!」
「久しぶり」
「うんうん。おめぇらも元気そうでなによりだ」
「一緒にフントのお散歩行こうよー!」
「あー、わりぃなアイリス。これからまだ劇場見てまわんねぇとでな」
「アイリス、戻ったら遊んでもらおうよ」
「そんな訳で、私達が戻ったら米田さんの所に行きますから待ってるがいいでーす!」

衣裳部屋ではマリアとさくらが衣装整理をしていた。

「あ!米田さん!お久しぶりです!」
「今日は、どうされたんですか?」
「久しぶりだな、二人とも。大神の奴に頼まれたんで、久々にな」
「衣装整理、お疲れ様。いつも助かってるわ」
「これも役者の仕事ですから」
「それに、結構楽しいんですよ?懐かしいーって」
「お?これは、あれだな『紅蜥蜴』のすみれの衣装だな」
「ホントだ!あの時のすみれさん、お綺麗でしたよね」
「横の仮面はドクロXね。マリアも格好良かったわよ」
「あ、ありがとうございます」





「ちょっとみねぇ間に皆でかくなったなぁ」
「ええ、それに大神くんも随分立派になったでしょう?米田さん程の威厳はありませんけど」
「あいつにそんなすぐ追いつかれたらたまんねぇな、まだまださ」
「時に、かえで。おめぇは?最近どうだい?」

決して良くは無いだろうにと、知ってはいたが聞いてみた。
案の定、隣で息をのむ気配がしてかえでが戸惑う。

「私ですか?相変わらずですわ。不謹慎ですけど、ラチェット達に会うのも楽しみで」

勿論、周りを心配させないための嘘である。

(似てるなぁ、ホントに同じような顔しやがって・・。)

「かえで、座ってちょいと話そうや」
「は、はぁ・・・」

取りあえず、作戦室に入り椅子に腰掛ける。
真っ直ぐかえでの方を向いてみるが、彼女は俯いたまま。
米田は敢えて気づかない振りでかえでに質問する。

「大神と大河が前線に出るってこたぁ、参謀と総司令をどうするってんだ?」
「参謀だけならラチェットでもいいかも知れねぇが、司令官は・・」

そこで、かえでが顔を上げた。米田とかえでの目が合った。

「大神くんは、私に司令官を頼むと。欧州星組をもう一度やる、と」

大神はもう一度欧州星組を組織して、かえでを司令に据える。
今までの経験なら大神にも十分可能だろうに、わざわざ。

「私に、出来るんでしょうか。あの時は一年と続かなかったのに」
「あの子達は、大河くんや大神くんを信頼しています。なのに、また私の指揮下になんて・・・」

かえでの声が沈んでいく。
不安そう、というか、もう泣きそうな顔になっているが。

(大神よぉ、まだまだだな、おめぇも)

「なあ、かえで。ロニも織姫も此処に来て変わった。ラチェット達も、考えを改めた」
「おめぇの真っ直ぐな気持ちは、おめぇが真っ直ぐであり続ければちゃんと届く」

そこまで言って、かえでの頭を撫でる米田。
途端に耐え切れなくなったかえでが両手で顔を覆って泣き出してしまった。

「私・・姉さんや、大神くんみたいに、皆を・・まとめられるでしょうか・・?」
「だぁいじょうぶだ!考えてみな、普段の生活じゃ大神よりおめぇのが頼りになるぜ」

二カッと笑って言う米田に釣られて笑っていると、ふと肩に何かが触れた。
振り返ると、かえでの後ろの椅子が僅かに動いていた。

「姉さん・・・?」

感じ取った気配は月組のそれではなくて、今は亡き人の気配。

「聞かれたかもな、あやめくんによ」

この後、大神を叱ってやろうと思っていた米田は考え直してかえでを促した。

「そろそろ戻るか?久々に茶でも淹れてくれや」
「はい。そうしましょう」

(大神の野郎、あやめくんに絞られるかもしれねぇな)

晴れやかに笑うかえでの前を歩きながら、ふと思う米田と

(姉さん、もしかして大神くんの所に行っちゃったかしら?)

穏やかな心の隅でちょっと大神が心配になるかえでであった。





あとがきという言い訳

大変長らくお待たせしまして申し訳ありません。
番外編ではありますが、久方ぶりに更新であります。
米田さんを出したくて出したくて、ついでにお決まりのようにあやめさんも出てきた番外編。
ちょっとごちゃごちゃしてしまいましたが。
かえでさんの傍にはすごい人がいっぱい居るのでかえでさんが不安になっちゃったお話。
十分かえでさんもすごいんですが、そうは思ってないかえでさん。
こういう時米田さん頑張るんです←

さてさて。
次回もなるべく早く更新、といいたい所ですが。
家の者が体調崩してまして、ちょっとPCに触れない日が出てきそうです。
なるべくさっさと更新できるよう頑張りますが、ご容赦ください><
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