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ゆったりと一日を過ごすには最適な秋の日。
銀座の大帝国劇場では花組たちが思い思いの休日を楽しんでいる。

そんな穏やかな中、支配人になったばかりの大神はふと気配を感じた。
こんな空気には似つかわしくない、そしてその人物にしては珍しく、焦りを含んだ気配。


「どうした、加山」

支配人室に居た大神の後ろに降り立った気配。
大神の親友であり、帝国華撃団月組の隊長である加山雄一だった。

「少々、面倒な事態が発生してる。花組に動いてもらう事になりそうだ」
「面倒な事態・・敵か?」
「・・・。とにかく、副司令にも聞いてもらう必要がありそうだ」
「分かった。地下司令室で話そう。かえでさんにもすぐ来てもらう」

副司令である藤枝かえでは今、花やしき支部に出向いていた。
大神はキネマトロンを作動させ、花やしきに繋ぐ。

「こちら大神。かえでさん、今、宜しいですか?」
『はい、こちら花やしき支部・・あら、司令。何か?』
「月組から報告が。帝劇に戻ってきてください」
『了解。すぐに向かいます』

技師と話していたかえでを呼び戻し、衣裳部屋の掃除をしていたさくらに
花組をサロンに集めてくれるよう頼んで自身は地下へ急ぐ。
大神が地下に着いて数分後にはかえでも花やしきから到着した。

「それで?面倒な事態って何なんだ、加山」
「ああ・・まずはこの映像を見て欲しい」

作戦司令室のモニターに映し出されたのは何体かの霊子甲冑。
花組が使用しているそれとは形か違い、寧ろレニや織姫が乗っていたアイゼンクライトに近い。
それらが軍隊の戦車部隊と交戦している風景だった。

「これは・・霊子甲冑、なのか?」
「恐らく、そうだろう。人が乗っているかどうかは未確認だが」
「場所は何処なの?見たところ日本ではないようだけど?」
「欧州・・・。イギリスになります」
「欧州?なら巴里華撃団が行ける筈だろう」

欧州の方にはかつて大神が指揮を執り、隊長を務めた巴里華撃団が存在する。
本来なら彼女たちが事態の収拾を図る為に出動する事になる筈である。
それが何故、日本の大神たちに及ぶのか?

ブゥン、と音がして巴里華撃団のグラン・マとグリシーヌが写る。
大神は敬礼して彼女らに応じる。

「グラン・マ。ご無沙汰しております。グリシーヌくんも、久しぶりだな」
『久しぶりだね、ムッシュ。本来ならもっと楽しい話をしたいってのに』
『全くだ。久方ぶりに隊長と話すというのに、こんな情けない話題など・・!』

二人とも元気そうではあるが、話題が話題なだけに些か不機嫌である。

「それで、グラン・マ。巴里華撃団がイギリスへ行けないと言うのは・・?」
『お偉方の腰が重すぎるのさ。圧力が掛かって動けない』
『私たちとて動きたいのは山々なのだ。自分たちの土地をこの手で守れないなど、口惜しい・・!』

どうやら政府の圧力で身動きがとれないらしい。
グリシーヌなど、責任感の強い人間である。本気で悔しそうだ。

「・・分かりました。では、詳しい周辺の地図、目標のこれまでの行動などの情報をまとめて送って頂けますか」
『すぐに用意するよ。すまないね、ムッシュ。手間をかけて』
『了解。動けるようになったらすぐにでも向かおう』

出来る限りの事を、と巴里花組からの情報提供を頼んで通信を切る。
ここからはこちらの作戦会議だ。


「イギリスか・・。帝都花組だけでは戦力が・・」
「劇場を閉めるわけにもいきませんし・・。いかがなさいます?」

そう。劇場を閉める事は出来ない。
帝国華撃団全員を渡英させる訳にはいかなかった。
大神も、加山も、かえでも、どうしたものかと思案する。

唐突に、何か思いついた様子の大神が加山に質問する。

「加山、紐育の様子はどうだ?」
「紐育?今は何事もなく平和なものだが・・」
「そうか。かえでさん、紐育のサニーサイド司令に繋いで下さい」
「・・・流石ですわ、司令」

大神の意図を汲み取ったかえでがすぐに紐育へ通信を繋ぐ。
繋がった先にはサニーサイド司令とラチェットが顔を揃えていた。

『ハロー、大神司令。何か事件ですか?』
「やあ、ラチェットくん、サニーサイド司令。お願いがあるのですが」
『お願い?どんな事だい?』
「紐育華撃団から数人、人をお借りしたいのです」
『ふむ・・。穏やかじゃないね。何があったんだい?』

大神は、イギリスで霊子甲冑の騒ぎが起きている事、巴里華撃団が動けない事、
帝国華撃団の半数では戦力が足りないであろう事に加えて、距離的な問題も挙げた。

「我々が到着するよりも前に何か起こっては対応出来ない・・その為にも」
『なるほど・・。ラチェット、大河くんを呼んでもらえるかい?』
『了解。・・・大河くん、聞こえる?すぐ司令室に来て頂戴』

呼び出しから2,3分で新次郎がキネマトロンに映し出された。
事情については来るまでに説明されたらしいが、画面を見て驚いた顔で敬礼する。

『お、大神司令。お待たせしました!』
「急に済まないな、大河隊長。事情は聞いたか?」
『はい。紐育から数人人選を、との事でしたが・・』
「そうだ。今から、頼みたい人を言うから通達を頼む」
『了解しました。どうぞ』
「まず、九条昴くん。ダイアナ・カプリスくん、ラチェット・アルタイルくん。それと・・」
『昴さん、ダイアナさん、ラチェットさん・・他にも?』
「ああ、それと、大河新次郎。お前にも同行を頼む」
『ぼ、僕もですか!?一郎叔父と一緒に!?』

突然挙がった自分の名前に動揺を隠せず、思わず素の喋りになる。
余程嬉しいのか、目が輝いているのが丸分かりだ。

「大河隊長。紐育組の統率は君に任せる。出来るな?」
『はっ!大河新次郎、粉骨砕身の覚悟で頑張ります!』
「・・いい返事だ。では、サニーサイド司令、すみませんが宜しくお願いします」
『了解。こちらこそ、宜しく。じゃあね』


紐育とも通信を終え、傍らで通信を聞いていた二人に向き直る。
加山は少し嬉しそうな、かえでは少し驚いているような顔をしていた。

「大神司令、帝都からは誰を行かせましょうか?」
「そうですね・・。とりあえず俺とかえでさん、光武の整備の為に紅蘭、レニと織姫くんでは?」
「レニさんと織姫さんである理由はあるのか?」
「二人とも、前の機体がアイゼンクライトだっただろう?今回の目標は形が似てるようだしな」
「では、留守の間はマリアに隊長代行を任せる形で?」
「ええ、上に行きましょう。皆を集めてあります」

こうして、花組史上、恐らく最大の作戦が始まろうとしている。



あとがきのようなもの

一度、やってみたかったネタです。
新次郎と大神を共闘させてー
ラチェットとかえでさんに指揮を任せてー
欧州華激団、ふっかーつ!←みたいな。
なのであえて欧州組を無理に集めました(笑)
続き物になりますが、気長にお待ち頂ければと思います。
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