帝都、銀座の大帝国劇場。
米田中将の指令を受けたかえでは初めてこの部屋にやってきた。
劇場の副支配人として、また帝国華撃団の副司令として。
かつてはかえでの姉、あやめが使っていたこの部屋に。
其処は既に綺麗に片付けられていて、何も残っていなかった。
敢えて言うならば、あやめの雰囲気だけしかない。
それだけが彼女が此処に居た事を告げている。
「姉さん・・・」
「すまねぇ。一通り整理しちまってなぁ」
「いいえ、構いませんわ。私の荷物も入れなくてはなりませんもの」
米田が申し訳なさ気に話すがそれも仕方のない事だった。
ずっとそのままというのも他の皆が辛いだろう。
何より、この後かえでの机やベッドが運ばれる事になっていた。
「それより支配人、荷物を置いたら帝劇の中を案内して頂けますか?」
「おぉ、そうだな。まずは地下から順番に・・・」
かえでが明るく話題を切り替えると米田もそれに応じて案内しようとする。
ところが、トランクを置き、ドアを閉めたところで事務所に居るかすみが慌てて階段を上ってきた。
「し、支配人!!花組のみなさんが・・!」
「なんでぇ、そんなに慌てて何事だ」
「そ、それが、皆さんが揃ってすみれさんのご実家に!きっと・・」
困りきった様子で告げられたのは、神崎邸に花組が押しかけてすみれの縁談をぶち壊そうとしているという一大事。
「な、なんだとぉ!?あいつら皆揃ってか!?」
しかも既に邸内で派手に暴れているとあってはのんびり帝劇を歩き回っている場合ではない。
かえではすぐに行動を起こそうと米田に提案する。
「支配人、私が行って来ますわ。皆に顔合わせもしたいですし」
「あー!仕方ねぇ!翔鯨丸を出すぞ!神崎邸に急げーっ!!」
「は、はい!了解です!」
こうして、青筋を立てて許可を出す米田を追ってかえでも神埼邸へと出向く事になった。
「まぁったくあいつら!何考えてやがるんだ!しかも大神まで一緒とは!」
「落ち着いて下さい、司令。理由は戻ってからでも・・」
カンカンになった米田をなだめつつ、ため息をつく。
赴任早々にこんなトラブルにみまわれるとは思ってもみなかった。
(なるほど、姉さんは大変だったのね)
神崎邸の近くに滞空した翔鯨丸から邸内に降り立ったかえでは中を覗き込み、状況を確かめる。
ボディーガードらしき黒いスーツの男たちが呻きながら倒れている。
どうやら花組は思った以上に暴れたらしい。
内心で謝罪しつつ奥に進んでみると、主である神崎忠義のよく通る声が聞こえた。
「此処ですみれを連れ帰ればどうなるか。分かっておるのだな、大神くん?」
大神はすみれを花組に戻す事を交渉しているらしい。
花組の面々は神崎氏の雰囲気に押されてしまっているようだが、大神はどうするのか。
(さぁ、どうするのかしら?大神くん?)
「はい。すみれくんは連れて帰ります」
大神は即座に決断を下し、すみれを連れて行くと言い切った。
隊長としてのその言葉に迷いは全く感じられない。
「隊長一人の判断で答えて本当にいいのじゃな?それが、花組の総意という事なのだぞ?」
(姉さんの言ってた通りの人ね。それなら・・・)
「結構ですわ。帝国華撃団副司令として、今の話、承認いたします」
皆の前に進み出ながら大神の決断を後押しする。
姉の名を呼ぶ大神の声に、敬礼を添えて名乗りをあげる。
「私は帝国華撃団副司令、藤枝かえで」
大神をはじめ、花組の面々は驚きを露にしている。
無理もないだろう。よく似た声と顔立ち、昔からよく言われたこと。
「あなたが大神くんね。姉さんが言ってた通りの人だわ」
(・・そして花組も、あやめ姉さんの言ってた通りね)
あとがきのようなもの
お久しぶりでございます。
どんな風にしようかと悩んで、結局短めですが。
書いてみたいなと思ってたものの一つです。
あの神崎邸での一件の直前。
まだ花組に会ってないかえでさんはどうしてたのかな、と。
あの超カッコいい登場の直前、どう思って其処に居たのか。
あー、まあ、ちょっと明るめの感じでしたけど。
シリアスがどうしても多くなってしまいそうなのでたまには。
相変わらずの亀更新ですが、またご意見、ご感想がありましたら是非。
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