どうしたものか。
あのマリアの告白以来、頭の片隅に彼女の言葉が張り付いていた。
あれから一週間が経過していた。
その間にかえでも復帰して仕事も何とか通常通り。
マリアは自分に対し、今までとなんら変わらぬ態度で接している。
ずっと考えてはいるものの、なかなか答えは出なかった。
「いいのかしら・・」
夜遅く、自室で日記を書きながら誰にともなくつぶやく。
確かに彼女にはよく助けられ、自分も気が付けは彼女に頼む事も増え。
副隊長を務める彼女との接点は多いだろう。
彼女はかえでを好いてくれていて、それで・・・・。
「ああ・・。これじゃ、堂々巡りだわ」
気が付けばいつもと同じ所に考えが及ぶ事に気が付いて思考を止める。
明日も早いと、慌ててベッドに入り布団を被って眠る体制を整える。
「姉さん、私はどうすればいいのかしら・・・」
今はもう、答えてはもらえない。
分かっていてもかえでは思わず姉に尋ねて眠りに落ちた。
ふと気が付くとかえでは暖かい場所に居た。
よく周りを見回すとそれは大帝国劇場のサロン。
自分は布団に入った筈だと一瞬戸惑ったが、すぐに夢だと理解した。
居る筈のない人が其処に居たから。
かえでと同じ軍服で、自分のそれよりほんの少し丈の長いスカート。
後ろできっちりと纏められた髪は同じ色をしている。
「あやめ・・姉さん?」
自分とよく似た顔で優しげな微笑を湛えた、藤枝あやめその人だった。
「なんて顔してるの、かえで」
「そ、そりゃあ驚くわよ。夢とはいえまた姉さんと話してるなんて。大体どうして姉さんが・・」
「だって貴女、何か悩んでるんでしょう?」
「・・はぁ。姉さんの事だから何で悩んでるかも知ってるんでしょ?」
あまりにあっさりと言われてしまってかえでは隠すのを諦めた。
そういえばこの人はいつもそうだったのだ。
「マリア、ね」
「ええ・・。まさか告白されるなんて思ってなくて・・」
「それに、マリアは花組の隊員で、女性なのよ」
ソファに腰掛けながら、姉の方を向く。
「かえで。貴女はホントに昔から変わらないわね」
「そ、そんな事・・!」
「変わらないわ。立場と周りを気にしすぎて、自分の本心を押さえ込んでる」
隣に同じように座った姉と正面から視線がぶつかる。
いつもの目がかえでを見つめる。
知っている、そして、理解している目。
(ああ、やっぱり姉さんに隠し事なんて不可能だわ。)
「だって、好きかどうかなんて・・。気にはなるけど、でも」
「考えすぎないで、自分に正直になればいいわ。無理すると辛いわよ?」
額のあたりにツンと軽い衝撃が走る。
気が付けば姉は自分の前にしゃがみ込んで顔を覗き込んでいた。
昔、よくされた仕草。姉のお得意だった。
「そう、ね。マリアと話してみるわ」
「ん。よろしい」
「ありがとう、姉さん」
「どういたしまして。頑張ってね、かえで」
すっと立ち上がったあやめが踵を返す。
「姉さん!!」
ふと掻き消えた姉の残像に思わず叫び、そこで目を覚ました。
「はっ!・・今の、本当に夢なのかしら」
ベッドから身を起こし、まさかと思いサロンへ足を運ぶ。
サロンのベランダの前には見慣れた長身と金髪。
「・・マリア」
「ああ、かえでさん。眠れないんですか?」
「ええ、ちょっと、ね」
決めた。ぐらついてしまう前にちゃんと話そう。
「あのね、マリア」
「はい」
「本当に、私のこと好き?」
「ええ、勿論です」
「あやめ姉さんと似てるからじゃなくて?」
「似てるからじゃなくて、です」
マリアの目を正面から見て、言った。
「私、貴女のことが好きとか、正直まだよく分からないけど」
「・・・それでも、いいかしら?」
言った後、急激に恥ずかしくなって思わず顔を伏せる。
と、唐突に体が引き寄せられ、気が付けばマリアの腕に収まっていた。
「良かった。断られるんじゃないかと思ってました」
「え、えと、流石にちょっと驚いたけど・・」
「ありがとうございます、かえでさん」
「・・あっ!ねえ、マリア。部屋に行きましょう!ね、此処に居たら風邪ひいちゃうわ」
「そうですね。じゃあ、かえでさんの部屋に」
「ちょ、マリア!いきなり・・」
抱きしめられた状態から抱え上げられる形で自室まで連行されながら。
姉はどうやって彼女と付き合っていたんだと考えをめぐらすかえでであった。
それでも気持ちは穏やかでたまには正直も悪くないかと思ったり。
(姉さんと貴女は一体どんなだったの?)
(大切なんです。あやめさんも、貴女も)
(二人とも、ちゃんと見てるから)
あとがきのようなもの
・・・何ヶ月ぶりでございましょうか。
大変、大変ご無沙汰しておりましたーー;
『あの人と貴女』完結でございます。
どうしてもあやめさんを出したくて。
ちょっと強引な流れになってしまった感がありますが。
何とか完結させることができました。
ちょっとオフが忙しくてPCに触る暇が持てずにずんずん時間が経ってしまって・・。
待ってくださってた方、ありがとうございます^^
これからまた更新ペースを上げていけたらと思います。
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