出張から戻ると皆が出撃していると聞かされた。
そのまま自分も出撃したので、彼女ときちんと顔を合わせたのは帰還後だった。
「貴女がマリアね。初めまして、藤枝かえでです」
・・・とても、似ている。
「マリア・タチバナです。宜しくお願いします、副司令」
「こちらこそ、宜しくね」
声、外見、纏っている空気。
――そして、その笑顔までもが。
皆も驚いたようで、初めこそ戸惑ったもののすぐに慣れたらしい。
恐らく彼女の親しみやすい空気によるものだろう。
彼女自身も帝劇に慣れて副支配人と副司令という仕事を上手くこなしている。
そんな頃、偶然階段で彼女とすれ違った。
正確には彼女が私の前で足を踏み外したのだが。
「・・きゃっ!」
「副支配人!」
かろうじて彼女を受け止め、驚く。
明らかに高熱だ。
「何故、そんな状態で仕事をしてたんですか?」
「だって、私の自己管理不足で仕事を遅らせたり出来ないでしょう?」
「・・・・。今日の仕事は、後どのくらい?」
「この書類を支配人に提出して最後だけど・・」
「なら、それは私が届けておきますから、休んでください」
「私の仕事だもの、そんな訳にはいかないわ」
やはり、というかこういう所もそっくりだ。
自分に厳しく、意外と頑固なのだ。
仕方ないので些か強引にかえでの部屋まで抱えて運ぶ。
「マ、マリア!?ちょっ、降ろして頂戴!」
「いいえ。駄目です」
きっと、降ろしたらその後また休む機会が無くなってしまうだろう。
彼女の部屋の扉を開け、ベッドに寝かせる。
流石にもう観念したようで、抵抗される事は無い。
タオルと水を入れた桶を持って戻ると困ったような顔で言われた。
「本当に、書類を届けたら休むつもりだったのよ」
「届けついでに仕事を頼まれたら、それもやろうとしますよね?」
「・・・どうしてそう思うの?」
「あやめさんも、そんな人でしたから」
あまり言いたくは無かったけれど。
予想通りの反応が返ってきた。
「私と姉さんが全く同じって思ってるの!?」
「そんな事は・・っ!副支配人!」
口調を荒げたせいで咳き込んだ彼女を慌てて宥める。
「落ち着いて下さい。少し休まれた方が・・」
「少し、一人にして頂戴。マリア」
「・・・分かりました。失礼します」
彼女がああいうなら今は仕方ない。
その場を辞しながら、思わず後悔した。
何故あんな言い方をしてしまったんだろうか。
折を見て謝らなくては、と思いながら自室へ戻った。
彼女が退室した後。
しばらく天井を見ながら思いを巡らせる。
昔からそうだった。
優秀だった姉とそれに劣る自分と。
比べられて、重ねられて。
(姉さんもそんな人だった、なんて)
思わず勢いであんな事を言って追い出してしまったが、しかし。
彼女がそんな人じゃない事くらいは、分かっていた。
悪い意味で言っている訳ではないのだ。
ただ、純粋に心配してくれただけなんだと思う。
「私ったら、なんて事・・」
ああ、今度会ったら謝ろう。
部屋を出る時の彼女の痛そうな表情を思い出して罪悪感に苛まれる。
そうして考え込んでいる内に、いつの間にか意識を手放してしまっていた・・。
あとがきのようなもの
ちょっとバタバタしてまして、更新がすごく遅れてしまいました。
そしてさらに、今回は話を分けました。
いつもガーッと書いて、載せてみたら意外と長くなったりするので。
この話は、かえでさんとマリアにまだ壁があります。
続きで壁が壊れるようにするつもり(勿論!
マリアが副司令って呼んでるのはあやめさんを意識しちゃうから、みたいな。
かえでさん、姉さんみたいにやろうとして頑張りすぎたって感じで。
後半は早く更新できるように頑張ります!
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