春先の銀座、大帝国劇場。
夜も更けて随分と遅い時間である。
2階のテラス、一際大きな窓の前に一人の青年の姿がある。
帝国華激団隊長、大神一郎。
いつも朗らかな彼にしては珍しく思い詰めた顔で月を眺めていた。
手には一丁の拳銃が握られている。
撃った。
あの日、命令だとまで言われて。
俺は貴女に託されたこの銃で貴女を、撃った。
不発であればとどんなに思ったか。
しかし無常にも引鉄は正しく作用した。
あの時のまま、拳銃には数発の弾が装填されている。
今この引鉄を引いて自分を打ち抜けば、俺は貴女に逢えるだろうか。
そう思いながら頭に銃口を当ててみる。
「・・大神くん?」
弾かれたように振り返ると怪訝そうな顔で藤枝かえでが立っていた。
「どうしたの、こんな時間に」
「ちょっと寝付けなくて・・かえでさんこそどうなさったんですか?」
「喉が渇いちゃってね、飲み物を取りに」
もしかして、見られてしまっただろうか。
「その、大神くん?貴方が今持ってるのは・・」
やはり、見えてしまったようだ。
隠しきれるものでもないと大神は観念して拳銃を出した。
「聞いて、いただけますか」
二人はサロンに移動して向かい合って座る。
テーブルには、あやめの拳銃を置いて。
「かえでさんは、あやめさんの最期、聞いていますか?」
「え?最期は帝都の為に・・って」
本当はこんな事、言うべきじゃないんだろう。
俺の独断で周りのかえでさんに対する気遣いを壊すかもしれない。
「俺が、撃ちました」
「直前にあやめさんからこれを託されて」
「俺がこの手で、あやめさんを、撃った」
句切りながら、ゆっくりしかし確実に。
彼女に真実を告げていく。
姉の命の灯を消したのは今目の前に居るこの男だと。
赤い月を忘れる事が出来ない。
俺が貴女を撃ってしまったあの時の感覚が戻って来るようで。
俺とさくらくんを最期に庇ったあの人が見えるようで。
「姉さんは、敵として死んだんじゃない。藤枝あやめとして死んだのね」
「あやめ姉さんの事、忘れないで居てくれるのね」
「忘れるなんて、出来ません。俺は・・」
「苦しまなくていいわ、大神くん」
「貴方が後を追っても、姉さんは喜ばないわ。そうでしょう?」
「・・・はい」
ああ、そうか。
俺に出来るのは貴方の遺志を継いで帝都を守っていく事だ。
此処で、貴女が好きだったこの場所で。
すみません、あやめさん。
俺は忘れるところだった。
貴女から託された大事なものを。
『こぉら!なんて顔してるの?しっかりしなさい、大神くん!』
ピシッと音がしてかえでが大神の額を弾く。
いつか、あやめがそうしたように。
まるで二人が同時に言ったように聞こえて大神は驚く。
「はい。すみません、もう大丈夫です」
「ん、よろしい」
かえでが笑顔で応じるその後ろにあやめが微笑んでいたような気がした。
(しっかりね、大神くん)
大丈夫です。俺は、もう大丈夫。
見ていて下さい、あやめさん。
あとがき的なもの
赤い月、大神さん視点。
『』の台詞は2人の声が被ってる感じで。
私はあのシーンであやめさんを一度撃ちました。
さすがにそれ以降は無理でした(だって、ねぇ
あやめさんを、藤枝あやめっていう人として留めてあげたかった。
それが正しいとは言い切れないんですが。
かえでさんは姉が敵の手に堕ちきった訳ではないと知って安心、みたいな。
あ、因みにかえでさん視点との時間軸の関係はご自由に。
ちょっと強引ですがどっちでもいけそうな感じなので。
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