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大抵の人が寝静まっているであろう午前二時。
勿論、天下の大帝国劇場にも起きている人間はほぼ見当たらなかった。

二階にある一室。
部屋の主である大神一郎は喉の渇きを覚えてふと目を覚ました。

(何か飲もう・・確かミネラルウォーターが・・)

厨房の冷蔵庫にあるであろう水分を求めて起き上がろうとした、その時。

「え、あれ!?」

起き上がろうとした、にも拘らず起き上がれない。
辛うじて首が動く程度で、腕すら上がらなかった。
俗に言う『金縛り』である。

『大神くん、お久しぶりね』

聞き覚えのある、しかしとても懐かしい声。
帝国歌劇団の前副支配人、藤枝あやめの声が聞こえた。

「あ、あやめさん?・・これは、一体!?」
『あら、ちょっとしたお仕置きよ』
「お仕置き?俺は一体何をして・・・」
『まあ取りあえず、上半身くらい起こせるようにしてあげるわ』
「は、はい・・」

ふう、と溜息を吐きながら体を起こし、あやめに向き直る。
突然現れ、お仕置きと言って問答無用の金縛りとは一体どういう事なのか?

「それで、あの、俺は一体・・」
『大神くん。今度の遠征の采配、かえでを司令に据えたわよね』
「はい、今の皆なら昔のような事は無く、きっと大丈夫だと・・・」
『そうね、大丈夫かもしれない。皆は、ね』
「皆は、って・・?」
『かえでには、相当なプレッシャーが掛かってるわ。欧州の事を一番気に病んでたのはあの子ですもの』
『気が付かなかったかしら、最近のかえでは時々不安そうな顔をしてたわよ?』
「そんな・・俺は、どうしたら・・・?」
『米田さんが気づいてフォローして下さったから、大丈夫』
「・・・じゃあ、あの時に・・?」

昼間、劇場内を見ると言ってかえでを伴った米田は厳しい目を自分に向けた。
あれは、気付けというサインだったのだろうか?

『そう。やっと気付いたのね、大神くん。じゃあ、お仕置きの仕上げよ』
「え、仕上げ・・って?」

気が付けばあやめは大神の目の前に移動していた。
大神は思わず後ずさりしようとしたが、運悪く自分はベッドの上である。
当然ながら、嫌な予感しかしないのだが逃げる事は不可能で。
いや、もう自分に逃げる資格は無いと腹を括るしかなかった。

やがて、すごい音を立てて、大神は壁に体をぶつける事となった。

「う・・」

あやめのお得意、しかも人外のパワーで。
これは、もしかしなくても、相当怒っている。




「大神くん?すごい音がしたけど、どうしたの?」

控えめなノックの後、心配そうな声が聞こえた。
隣の部屋を使っているかえでが、あまりの音に驚いたらしい。

「か、かえでさん・・あの・・」
「入るわよ、大神くん」

取り敢えずとばかりに一声掛けてから部屋に入ったかえではその場から動けなかった。
部屋には頭を抑えて蹲る大神。
そして、昼間感じた気配が予想通りに大神の前に居るのである。
大神とあやめを交互に見て、恐る恐る声を掛けた。

「姉さん?・・お、大神くん?ちょっと、大丈夫?」
「は、はは、大丈夫・・です」
『怪我とかはさせてないから大丈夫よ?』
「何したの?すごい音がしたんだけど・・」
『いつも通りのお仕置きだけど?いつもよりちょっと力が入りすぎたかしら』
「・・・・・ありがとう、姉さん。後は大神くんと話してみるわ」
『そう?じゃあ、失礼するわね。おやすみなさい』

あやめはいつもの優しげな笑みを浮かべてふわりと去っていった。
ただ、呆然とその場所を見つめるかえでと大神。




「い、痛かったでしょう、大神くん。少し冷やす?」

一気に静まった場の空気に耐え切れず、かえでが切り出す。
蹲っていた大神ははっとして、慌てて捲し立てた。

「あ、あの。かえでさん!俺、すみませんでした、全然、気付かなくて・・・!」
「大丈夫よ、私なら」
「でも、俺は、ずっとフォローも何も」
「落ち着いて頂戴。大神くん、私は大丈夫だから」

起き上がろうとする大神の肩を押さえて押し留めながら、かえでもしゃがみ込んだ。
大神が落ち着いたのを確認して、ゆっくりと話し始める。

「確かに、不安だったわ。レニや織姫だけならともかく昴やラチェットまで編成に組まれてて」
「大河くんの指揮ではなく、私の指揮でもう一度動いてくれるのかどうか」
「欧州時代の事も皆少なからず引きずってしまうだろうし、ギクシャクしないか、とか」

「何より、私に皆を纏める自信が無かったから」

一瞬、泣きそうな顔で大神を見る。
だがすぐにいつもの穏やかな笑顔に戻って、言った。

「でもね、大丈夫よ。私も大神くんみたいに真っ直ぐで居ようと思ったの」
「俺みたいに、真っ直ぐ・・ですか?」
「そうよ。真っ直ぐに皆を見て、真っ直ぐ皆に向き合う。貴方はいつもそうでしょう?」
「俺は、ただ皆にいつも助けてもらって・・」

困惑した顔で大神は否定しかけるが、かえではそれに首を振った。

「いいえ、大神くん。私ね、レニや織姫が此処に来た時、とても心配だったわ」
「欧州の時のままのあの子達が、どうやっていくのか、とても」
「でも、織姫くん達は・・!」
「そう。大丈夫だった。貴方が、貴方達が、あの子達と真っ直ぐ向き合ってくれたから」
「絶対に見捨てない、真っ直ぐな心があの子達を救ったんだと、私は思うわ」

そこまで言って、立ち上がりながらかえでは続けた。

「だから、私も。貴方みたいに、皆に助けてもらう事にするわ」

ふふ、と笑いながら大神に手を差し出したかえでの眼には迷いも不安も無かった。
大神は差し出された手を取りながら、微笑み返す。

「俺も、力になります。いつでも言ってください」
「あら、じゃあ頼りにしてるわよ?隊長さん」

優しさの篭った指に額をツンと押されて、大神は笑みを深くした。

(ああ、俺もまだまだ精進しないと、駄目だなぁ)

(楽しみだわ、あの子達に揃って会えるのが)


――――その後。

「あ、いてて・・っ」
「大神くん?あら、やっぱり冷やしましょう!氷を持ってくるわね」

パタパタと慌てて氷を取りに行ったかえでを見送ると何処からか声が聞こえた。

「情けないぞ、大神ぃ。明日はきっと真っ赤だなぁ」
「う、うるさい。お前、何で助けてくれないんだ」

親友の冷やかしに悪態を吐きながら、鏡で額を確認する。
これは確かに、明日どうしたものかと肩が落ちた。

「前副司令だって気付いたしな。それに俺にはかえでさんのお茶の方が大事さ」
「ちょっと、加山くん。余計な事言ってないで出てらっしゃい!」
「はい、お呼びでしょうか副司令」

戻ってきたかえでにお喋りを止められ、芝居がかった仕草で現れる加山。

「お呼びでしょうか、じゃないわよ。もう。報告に来てただけでしょ?」

余計な尾ひれをつけて、と加山を睨みながら大神に氷を渡す。
はは、と笑いながら氷を受け取った大神は加山を見遣りながら退散を促した。

「もう遅いし、戻って休めよ、加山」
「大神ぃー!親友の心遣いに感動だなぁ!では、アディオス!」

大袈裟に感動を表して去って行った親友にやれやれと嘆息しながら額を冷やす。

「じゃあ、大神くん。私も休むわね。おでこ、ちゃんと冷やすのよ?」
「あ、はい。おやすみなさい、かえでさん」
「おやすみ、大神くん」

親友なりの心配と、かえでの心の広さに感謝する大神であった。




あとがきという名の言い訳

あやめさん怒らせちゃった編です、はい。
きっとあやめさんはかえでさん大事だし。
たまにはきっと、こんな感じにも、なるの、かな?←
シリアスなような、コミカルなような(笑)
最初は加山は出さないつもりだったけど、出しちゃいました。
たまには加かえに走ろうかなと思いまして。
因みに加山は、確かに報告に来てたけど、お茶もホントに飲んでました設定です。

てかあれですね。私、あやめさん出しすぎですね。
マリアが最近全然なのになー。

ではでは、寒い時期なので風邪などには皆様お気をつけて。

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元帝国華撃団司令にして大帝国劇場支配人、米田一基。
帝撃を大神に任せて引退した彼は久方ぶりに大帝国劇場の支配人室にやってきた。

「大神ぃ、入るぞー」

今まで呼び出しなど無かったのに何事かと訝しく思いながらドアをノックする。
すぐに大神からどうぞ、と返事があったのでそのまま入る。

「お久しぶりです、米田さん」
「ご無沙汰しております。朝早くに、申し訳ありません」
「おう。元気そうでなによりだな、二人とも」

支配人室で待っていたのは大神と副支配人の藤枝かえで。
二人とも表情が硬い上に、かえでなどこの上なく不安そうである。
隠居の身である自分を引っ張ってくる必要がある大事、ということか。

「話せ、大神。俺を呼んだってこたぁ、そういうこったな?」
「はい。イギリスに詳細不明の霊子甲冑が出現、圧力で動けない巴里華撃団に代わって帝都・紐育で鎮圧に向かいます」
「圧力?・・・迫水が動けねぇとは余程か。で、お前も出るのか?」
「俺も、かえでさんもイギリスへ行く事になりました。申し訳ないのですが、その間・・・」
「アイリス達に、米田さんが来るって言っちゃったんです」

険しい顔で話す大神の後を受けて申し訳無さ気に続けるかえで。
そう、駄々をこねたアイリスに米田の話をして宥めていた手前、どうしても米田に来てもらう事になったのだ。
帝劇の留守を任せられる数少ない人である事もまた理由ではあるのだが。

「はっはっは!そうか、アイリスに言っちまったか!そりゃ仕方ねぇな」

少ない会話で現状を察し、自分が呼ばれた理由を理解した米田は笑い飛ばした。
花組をよく分かっているからこそ、アイリスの駄々っ子にはなかなか勝てない事も知っている。
何せ、あのあやめですら時々困っていたのだからもう仕方が無いのである。

「よし!留守は任せとけ!久々に支配人面して歩いててやるよ」
「ははは、すみませんが宜しくお願いします」

笑いながらチラリと横目でかえでの様子を伺ってみたが、不安の色は消えていない。
大神もそれが分からない男ではない筈だが、どういうことなのか。

「よし、久々に帝劇を歩き回るとすっか。かえで、一緒にどうだ?」
「?は、はい。お供させて頂きます」

敢えてかえでの方は向かず、大神に咎める様な視線を向けて支配人室を後にした。





一通り見てから地下の方へ歩きながら、かえでに最近の皆の様子を聞く。
アイリスはこれでも我侭が随分減ったとか
相変わらずカンナとすみれが会う度に喧嘩してるとか
紅蘭の部屋をこれまでに改修した回数とか(とんでもない数字だった)
ロニや織姫が随分大人っぽくなってきたとか
さくらは今やマリアと並ぶ看板女優だとか

劇場を一巡りする際にも皆に会ってそれを実感する。

サロンではすみれに会い、お茶を飲む。
途中でカンナが乱入してやはり諍いになった。

「まぁ、米田さん!ご無沙汰しておりますわ。よろしかったらお茶をご一緒しませんか?」
「おう!元気そうだなすみれ!じゃあ、お言葉に・・・」
「あ、米田さんじゃねぇか!サボテン女と何話してんだ?」
「ちょいと、カンナさん!誰がサボテンですの!大入道に言われたくありませんわ!」
「何だと!誰が大入道だぁ!?」

・・・・エンドレス。

紅蘭の部屋の前を通ったら爆発が襲ってきた。

「あ、米田さん!ひっさしぶりやなぁ!」
「紅蘭、今度は何作ってたんだ?」
「『目覚しくん』や!織姫はんを起こすにはと思たんやけど・・」
「気持ちは分かるけど、あれは目覚しくんでも起こせないと思うわ、紅蘭」
「うーん、やっぱそうなんやろか・・?」
「取りあえず、裏方達よんでやってくれ、かえでくん」

中庭ではロニと織姫、アイリスがフントと戯れていた。

「あー!米田のおじちゃんだ!わーい!」
「元気そうですねー!良かったでーす!」
「久しぶり」
「うんうん。おめぇらも元気そうでなによりだ」
「一緒にフントのお散歩行こうよー!」
「あー、わりぃなアイリス。これからまだ劇場見てまわんねぇとでな」
「アイリス、戻ったら遊んでもらおうよ」
「そんな訳で、私達が戻ったら米田さんの所に行きますから待ってるがいいでーす!」

衣裳部屋ではマリアとさくらが衣装整理をしていた。

「あ!米田さん!お久しぶりです!」
「今日は、どうされたんですか?」
「久しぶりだな、二人とも。大神の奴に頼まれたんで、久々にな」
「衣装整理、お疲れ様。いつも助かってるわ」
「これも役者の仕事ですから」
「それに、結構楽しいんですよ?懐かしいーって」
「お?これは、あれだな『紅蜥蜴』のすみれの衣装だな」
「ホントだ!あの時のすみれさん、お綺麗でしたよね」
「横の仮面はドクロXね。マリアも格好良かったわよ」
「あ、ありがとうございます」





「ちょっとみねぇ間に皆でかくなったなぁ」
「ええ、それに大神くんも随分立派になったでしょう?米田さん程の威厳はありませんけど」
「あいつにそんなすぐ追いつかれたらたまんねぇな、まだまださ」
「時に、かえで。おめぇは?最近どうだい?」

決して良くは無いだろうにと、知ってはいたが聞いてみた。
案の定、隣で息をのむ気配がしてかえでが戸惑う。

「私ですか?相変わらずですわ。不謹慎ですけど、ラチェット達に会うのも楽しみで」

勿論、周りを心配させないための嘘である。

(似てるなぁ、ホントに同じような顔しやがって・・。)

「かえで、座ってちょいと話そうや」
「は、はぁ・・・」

取りあえず、作戦室に入り椅子に腰掛ける。
真っ直ぐかえでの方を向いてみるが、彼女は俯いたまま。
米田は敢えて気づかない振りでかえでに質問する。

「大神と大河が前線に出るってこたぁ、参謀と総司令をどうするってんだ?」
「参謀だけならラチェットでもいいかも知れねぇが、司令官は・・」

そこで、かえでが顔を上げた。米田とかえでの目が合った。

「大神くんは、私に司令官を頼むと。欧州星組をもう一度やる、と」

大神はもう一度欧州星組を組織して、かえでを司令に据える。
今までの経験なら大神にも十分可能だろうに、わざわざ。

「私に、出来るんでしょうか。あの時は一年と続かなかったのに」
「あの子達は、大河くんや大神くんを信頼しています。なのに、また私の指揮下になんて・・・」

かえでの声が沈んでいく。
不安そう、というか、もう泣きそうな顔になっているが。

(大神よぉ、まだまだだな、おめぇも)

「なあ、かえで。ロニも織姫も此処に来て変わった。ラチェット達も、考えを改めた」
「おめぇの真っ直ぐな気持ちは、おめぇが真っ直ぐであり続ければちゃんと届く」

そこまで言って、かえでの頭を撫でる米田。
途端に耐え切れなくなったかえでが両手で顔を覆って泣き出してしまった。

「私・・姉さんや、大神くんみたいに、皆を・・まとめられるでしょうか・・?」
「だぁいじょうぶだ!考えてみな、普段の生活じゃ大神よりおめぇのが頼りになるぜ」

二カッと笑って言う米田に釣られて笑っていると、ふと肩に何かが触れた。
振り返ると、かえでの後ろの椅子が僅かに動いていた。

「姉さん・・・?」

感じ取った気配は月組のそれではなくて、今は亡き人の気配。

「聞かれたかもな、あやめくんによ」

この後、大神を叱ってやろうと思っていた米田は考え直してかえでを促した。

「そろそろ戻るか?久々に茶でも淹れてくれや」
「はい。そうしましょう」

(大神の野郎、あやめくんに絞られるかもしれねぇな)

晴れやかに笑うかえでの前を歩きながら、ふと思う米田と

(姉さん、もしかして大神くんの所に行っちゃったかしら?)

穏やかな心の隅でちょっと大神が心配になるかえでであった。





あとがきという言い訳

大変長らくお待たせしまして申し訳ありません。
番外編ではありますが、久方ぶりに更新であります。
米田さんを出したくて出したくて、ついでにお決まりのようにあやめさんも出てきた番外編。
ちょっとごちゃごちゃしてしまいましたが。
かえでさんの傍にはすごい人がいっぱい居るのでかえでさんが不安になっちゃったお話。
十分かえでさんもすごいんですが、そうは思ってないかえでさん。
こういう時米田さん頑張るんです←

さてさて。
次回もなるべく早く更新、といいたい所ですが。
家の者が体調崩してまして、ちょっとPCに触れない日が出てきそうです。
なるべくさっさと更新できるよう頑張りますが、ご容赦ください><

大帝国劇場、二階のサロンにはマリアの指示によって花組全員が集合していた。
皆、何事かとざわついて大神達を待っている所である。

「なあ、マリアも何も知らないのか?」
「ええ。じきに隊長達が来ると思うんだけど・・」
「もー!一体何だって言うですか!?シエスタしたいでーす!」

痺れを切らした織姫がいつもの日課を求めて喚いた時、大神達がサロンに現れた。

「やあ、織姫くん、皆。待たせてすまない」
「大神さん!何かあったんですか?」
「えらい長いこと待ってたで?」

どうやらマリアが皆を呼び集めてから随分経っていたようで、それぞれに参っていたようだ。
かえでが困ったように笑って皆に着席を促した。

「ごめんなさいね、皆。とりあえず座って頂戴」
「これから、ちょっと大掛かりな事があるんだ。聞いてくれ」

そうして、今現在イギリスで起こっている事と巴里華撃団が動けないので支援に向かう事を伝える。
あの巴里華撃団が動けないと知って皆一様に驚きを隠せないようで、その場に緊張の空気が流れている。

「しかし、隊長。私達が支援に向かったら劇場が・・・」

マリアがもっともな意見を発する。

「うん。だから、花組のうち支援に向かうのは半分だ。この作戦は帝都だけでは無理なんだ」
「紐育星組にも連絡済みよ。あちらからも半分程に協力をお願いしてあります」
「じゃあ、誰が行くんだい、隊長?」

大神はカンナの言葉に頷きながらメモを取り出して口を開いた。

「支援に向かうのは、紅蘭、レニ、織姫くん、俺とかえでさんだ」
「それと、紐育からは昴、ダイアナ、ラチェット、大河隊長よ」

大神に続き、かえでが紐育側の人選を伝える。
途端に、居残り組からブーイングが噴出した。

「何でアイリスお留守番なの?お兄ちゃん!」
「あたい達だって行きてぇよ!そうだろ、さくら!」
「そうです!私達だって行きたいです、大神さん!」

さくら、カンナ、アイリスが怒涛のブーイングを発する中、マリアが一人冷静に口を開く。

「隊長、かえでさんも行かれると、私一人では流石に厳しいと思うのですが?」
「米田さんに少しお願いしようと思ってるんだ。いつ終わるか分からないしね」
「ああ、良かった。それなら安心ですね」

米田の名前が出た事でマリアに安堵の表情が浮かんだ。
同時にアイリス達のブーイングが収まり、歓喜に変わって喜びの声があがる。

「えっ、米田のおじちゃんが来るの?アイリス、いっぱいお話しよーっと!」

だが、アイリスが嬉しそうにジャンポールを抱える横で、レニが訝しげな顔で大神を見ている。
何か言いたそうな顔でかえでと大神を見比べたとき、大神と目が合った。
レニが何を言いたいのか悟った大神は一つ頷いてみせた。
過去、試験的に存在した欧州星組をもう一度やり直す。
それは、レニや織姫、かえでにとって暗い過去だったが、今なら出来ると大神は思っていた。
ラチェットも昴も、昔とは違う。
協力する事が出来なければ、この作戦は成功しない。


――ピピピピッ

「あれ、キネマトロンに通信や」
『大神さん、紐育華撃団から通信が入っています。地下へお願いできますか?』
「ああ、分かった。ありがとう、かすみくん」

その通信を切って、大神は皆に解散を告げる。

「じゃあ、皆。済まないけど俺達が不在の間帝劇を宜しく頼むよ」
『了解!』

一同が解散した後、大神はかえでを伴って地下司令室に向かった。

「お待たせしました。大神です」

通信してきたのは新次郎とラチェットだった。

『大神司令、こちらは通達を終えて出発の準備を整えつつあります』
「そうか、ありがとう。こちらも同様に準備に入ってる所だ」
『出発は、いつになりますか?』
「こちらは早ければ明日にでも、動くつもりだ」

そう、事は早い方がいい。
兵は拙速を、というやつである。

では早速合流場所を・・とそのまま作戦会議に入り、詳細を決めていく。
そうして、帝都の夜は更けていった・・・。

 

チュンチュンと雀の声を聞きながら朝を迎えた帝都。
イギリス出立の準備を整えた大神達がロビーに集まっていた。

「では、米田さん、皆。帝劇を留守の間宜しくお願いします」
「おう、まかせとけ!久々の帝劇、ちゃーんと留守番しといてやるよ」
「ラチェット達に宜しく伝えてくださいね」
「ええ、みんな元気だって伝えておくわ」

久しぶりの帝劇を満喫している米田、ラチェット達を気にかけるマリア。
皆が明るく送り出そうと談笑する。
そして、一段落ついた頃かすみがやってきた。

「翔鯨丸、いつでも出発出来ます」
「ありがとう。では、帝国華撃団 花組、出撃!」

『了解!』



あとがきのようなもの

あー、恐ろしく進まないですね、申し訳ない><
小話が沢山浮かぶのに、本編がなかなか・・・。
暑さでダウンしたり、忙しかったりもあってすっかり遅くなってしまって。

今回でやっと出動で、この後紐育と合流していく感じです。
小話が幾つか浮かんだのでちょこちょこ何とか繋いでいきたいなぁ。

亀更新ですが頑張るぞー!

米田さんも出てきたしマリかえも書きたいし。
加山も出したい。大神と。
あとラチェット出したい。
やりたい事いっぱいです!ネタはあるはず!

あ、ラチェットは誰と組ませようか迷ってます。
ご意見、ご希望ありましたら是非。
複数意見があった場合は一番多かった意見で書いてみます。

かえでと大神は揃って二階のサロンへと向かっていた。
厳しい顔をした大神に、かえでが尋ねる。

「大神くん、あの人選は一体・・・」

紐育側に対する通達。
その人選の中には、既にスターを動かす事の出来ないラチェットが含まれていた。
そして、意図的に集めたかのようなあの顔ぶれ。

「今回も、俺は前に出て戦うつもりです」
「かえでさんとラチェットくんには司令と参謀をお願いしようと思っています」

そう、あの顔ぶれではかえでにもう一度欧州華撃団をやり直させるようなものだ。
かえでがまとめきれなかった、あの部隊を。

「今の貴女達になら、出来ますよね?」
「・・・そう、ね。今のあの子達は昔と違うものね」

以前は個人の能力にものを言わせた部隊だった。
個々の能力は高かったが、連携はまるで無く、時に味方にも攻撃が当たるような。
そして、かえでは部隊の欠点を直す為にコミュニケーションを取り続けた。
しかしまるで功を為さず、結果、欧州華撃団は解散となってしまった。

昔を懐かしむような顔でかえでは大神を見る。

自分も、彼女たちも、昔とは違って手を取り合う事が出来る。
きっと今度は、大丈夫。

「行きましょう。皆が待ってます」

仲間を信じる事が出来るのだから。
真っ直ぐ前を見て、皆の前に立とう。



あとがきのようなもの

今地道にお話を練ってる最中でして、もう少しお待ちいただけると幸いです^^;
今回は流石にちょっとと思って小話、というか会話を少しあげてみました。
この采配についてのかえでさんの思いと大神司令の考え。
何ていうかホント短いですが・・。

かえでさん、今ならきっと完璧にやってくれると思うんですよね。
ラチェットもかえでさんの立場が分かった今ならって思います。
今回のお話では色んな視点から小話って言うか番外編が書けそうですねー。

ではでは、済みませんがもう少しお待ちください。

ゆったりと一日を過ごすには最適な秋の日。
銀座の大帝国劇場では花組たちが思い思いの休日を楽しんでいる。

そんな穏やかな中、支配人になったばかりの大神はふと気配を感じた。
こんな空気には似つかわしくない、そしてその人物にしては珍しく、焦りを含んだ気配。


「どうした、加山」

支配人室に居た大神の後ろに降り立った気配。
大神の親友であり、帝国華撃団月組の隊長である加山雄一だった。

「少々、面倒な事態が発生してる。花組に動いてもらう事になりそうだ」
「面倒な事態・・敵か?」
「・・・。とにかく、副司令にも聞いてもらう必要がありそうだ」
「分かった。地下司令室で話そう。かえでさんにもすぐ来てもらう」

副司令である藤枝かえでは今、花やしき支部に出向いていた。
大神はキネマトロンを作動させ、花やしきに繋ぐ。

「こちら大神。かえでさん、今、宜しいですか?」
『はい、こちら花やしき支部・・あら、司令。何か?』
「月組から報告が。帝劇に戻ってきてください」
『了解。すぐに向かいます』

技師と話していたかえでを呼び戻し、衣裳部屋の掃除をしていたさくらに
花組をサロンに集めてくれるよう頼んで自身は地下へ急ぐ。
大神が地下に着いて数分後にはかえでも花やしきから到着した。

「それで?面倒な事態って何なんだ、加山」
「ああ・・まずはこの映像を見て欲しい」

作戦司令室のモニターに映し出されたのは何体かの霊子甲冑。
花組が使用しているそれとは形か違い、寧ろレニや織姫が乗っていたアイゼンクライトに近い。
それらが軍隊の戦車部隊と交戦している風景だった。

「これは・・霊子甲冑、なのか?」
「恐らく、そうだろう。人が乗っているかどうかは未確認だが」
「場所は何処なの?見たところ日本ではないようだけど?」
「欧州・・・。イギリスになります」
「欧州?なら巴里華撃団が行ける筈だろう」

欧州の方にはかつて大神が指揮を執り、隊長を務めた巴里華撃団が存在する。
本来なら彼女たちが事態の収拾を図る為に出動する事になる筈である。
それが何故、日本の大神たちに及ぶのか?

ブゥン、と音がして巴里華撃団のグラン・マとグリシーヌが写る。
大神は敬礼して彼女らに応じる。

「グラン・マ。ご無沙汰しております。グリシーヌくんも、久しぶりだな」
『久しぶりだね、ムッシュ。本来ならもっと楽しい話をしたいってのに』
『全くだ。久方ぶりに隊長と話すというのに、こんな情けない話題など・・!』

二人とも元気そうではあるが、話題が話題なだけに些か不機嫌である。

「それで、グラン・マ。巴里華撃団がイギリスへ行けないと言うのは・・?」
『お偉方の腰が重すぎるのさ。圧力が掛かって動けない』
『私たちとて動きたいのは山々なのだ。自分たちの土地をこの手で守れないなど、口惜しい・・!』

どうやら政府の圧力で身動きがとれないらしい。
グリシーヌなど、責任感の強い人間である。本気で悔しそうだ。

「・・分かりました。では、詳しい周辺の地図、目標のこれまでの行動などの情報をまとめて送って頂けますか」
『すぐに用意するよ。すまないね、ムッシュ。手間をかけて』
『了解。動けるようになったらすぐにでも向かおう』

出来る限りの事を、と巴里花組からの情報提供を頼んで通信を切る。
ここからはこちらの作戦会議だ。


「イギリスか・・。帝都花組だけでは戦力が・・」
「劇場を閉めるわけにもいきませんし・・。いかがなさいます?」

そう。劇場を閉める事は出来ない。
帝国華撃団全員を渡英させる訳にはいかなかった。
大神も、加山も、かえでも、どうしたものかと思案する。

唐突に、何か思いついた様子の大神が加山に質問する。

「加山、紐育の様子はどうだ?」
「紐育?今は何事もなく平和なものだが・・」
「そうか。かえでさん、紐育のサニーサイド司令に繋いで下さい」
「・・・流石ですわ、司令」

大神の意図を汲み取ったかえでがすぐに紐育へ通信を繋ぐ。
繋がった先にはサニーサイド司令とラチェットが顔を揃えていた。

『ハロー、大神司令。何か事件ですか?』
「やあ、ラチェットくん、サニーサイド司令。お願いがあるのですが」
『お願い?どんな事だい?』
「紐育華撃団から数人、人をお借りしたいのです」
『ふむ・・。穏やかじゃないね。何があったんだい?』

大神は、イギリスで霊子甲冑の騒ぎが起きている事、巴里華撃団が動けない事、
帝国華撃団の半数では戦力が足りないであろう事に加えて、距離的な問題も挙げた。

「我々が到着するよりも前に何か起こっては対応出来ない・・その為にも」
『なるほど・・。ラチェット、大河くんを呼んでもらえるかい?』
『了解。・・・大河くん、聞こえる?すぐ司令室に来て頂戴』

呼び出しから2,3分で新次郎がキネマトロンに映し出された。
事情については来るまでに説明されたらしいが、画面を見て驚いた顔で敬礼する。

『お、大神司令。お待たせしました!』
「急に済まないな、大河隊長。事情は聞いたか?」
『はい。紐育から数人人選を、との事でしたが・・』
「そうだ。今から、頼みたい人を言うから通達を頼む」
『了解しました。どうぞ』
「まず、九条昴くん。ダイアナ・カプリスくん、ラチェット・アルタイルくん。それと・・」
『昴さん、ダイアナさん、ラチェットさん・・他にも?』
「ああ、それと、大河新次郎。お前にも同行を頼む」
『ぼ、僕もですか!?一郎叔父と一緒に!?』

突然挙がった自分の名前に動揺を隠せず、思わず素の喋りになる。
余程嬉しいのか、目が輝いているのが丸分かりだ。

「大河隊長。紐育組の統率は君に任せる。出来るな?」
『はっ!大河新次郎、粉骨砕身の覚悟で頑張ります!』
「・・いい返事だ。では、サニーサイド司令、すみませんが宜しくお願いします」
『了解。こちらこそ、宜しく。じゃあね』


紐育とも通信を終え、傍らで通信を聞いていた二人に向き直る。
加山は少し嬉しそうな、かえでは少し驚いているような顔をしていた。

「大神司令、帝都からは誰を行かせましょうか?」
「そうですね・・。とりあえず俺とかえでさん、光武の整備の為に紅蘭、レニと織姫くんでは?」
「レニさんと織姫さんである理由はあるのか?」
「二人とも、前の機体がアイゼンクライトだっただろう?今回の目標は形が似てるようだしな」
「では、留守の間はマリアに隊長代行を任せる形で?」
「ええ、上に行きましょう。皆を集めてあります」

こうして、花組史上、恐らく最大の作戦が始まろうとしている。



あとがきのようなもの

一度、やってみたかったネタです。
新次郎と大神を共闘させてー
ラチェットとかえでさんに指揮を任せてー
欧州華激団、ふっかーつ!←みたいな。
なのであえて欧州組を無理に集めました(笑)
続き物になりますが、気長にお待ち頂ければと思います。
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